【第六話　人魚料理】
　　
　最近私は以下の夢を見た。

　場所は一流ホテルのようなところのレストランで、日本でも有数な名シェフが、日本でもトップクラスの若手文化人６名ほどに、超一流の食事を調理して提供しようとしている場面。ただし私は、シェフの後ろからのただの傍観者でしかない。
　レストランは総ガラス張り角部屋で、窓ガラスの向こうには青々とした樹木が涼やかに一面に繁っている。部屋の一番奥のガラス張りの手前に食事のためのカウンターがあり、カウンターは直角になっており、文化人たちはそのカウンター角にそれぞれ３人づつ寄せ集まってこれから出される料理に期待を膨らませている。

　調理場はオープンキッチンで、シェフは文化人の目の前で調理をし始める。料理の種類は和洋中華何でも有りで、はじめは活魚料理が見た目も鮮やかに盛り込まれ、文化人たちはうまそうに舌鼓を打つ。
　次に出されたのはステーキで、これまたそれぞれうまそうに平らげた。

　そして今日のメインディッシュは人魚料理で、文化人たちはとくに人魚料理に期待している。何せここに来た通人たちも人魚料理など誰も食したことがない。
　調理台には、大きさが子猫ほどもある人魚が数匹まな板の上でぴちぴちはねてる。下半身は魚でも上半身肌もあらわな女である。一体名シェフはこの人魚たちをどう調理するのか、文化人たちは興味津々、シェフの一挙手一投足に目が注がれている。
　その時シェフは、大きな中華包丁を振り上げてまな板に向けて一閃、まな板に包丁がドンと落とされた。しかし人魚は一匹も断ち割られず、小さな金魚ほどの大きさになってまな板の端の方で相変わらずぴちぴち跳ねたいた。

　これを見た文化人たちは一様にほっと胸をなでおろした。またシェフの後ろから傍観していた私もようやくひととごごちがついた。


【第一話　ボクシング】 　【第二話　トランプ】　【第三話　職場】　　【第四話　暴動】　【第五話　未来の文房具】

（完）

令和　２年　３月　１日　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　DOKKOU著