先月に続き、半藤一利著「歴史と戦争」幻冬舎新書より、これまたすばらしい話なのでもう一題。

　ー年頭の新聞に作家の野上八重子が心からの願いを寄せている。
「……たった一つお願いごとをしたい。今年は豊作でございましょうか、凶作でございましょうか。いいえ、どちらでもよろしゅうございます。洪水があっても、大地震があっても、……これらとペストがいっしょにはやっても、よろしゅうございます。どうか戦争だけはございませんように……」
　一人の作家の眼には、ひそかに忍び寄ってくる不吉な影が、ありありと映じていたのであろう。いかなる自然の災害よりも、人間が引き起こす〈戦争〉こそが、最大に悲劇であるという、野上さんのこの言葉は、次に来るべきものは人類絶滅の核戦争以外にはない、そうした厳しい現実に生きているわれわれには、ずしりとした重量感を持ってのしかかる。－

　さすが一流作家の文は違う。

（完）
令和　６年　４月　１日　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　DOKKOU著